今週のテーマ:「こうあるべき社会人像」というアイデンティティの手放し
導入:そのスーツ、心まで締め付けていませんか?
初めてリクルートスーツに袖を通した時のことを覚えていますか? 鏡に映る自分は、どこか自分ではない誰かのように見えたかもしれません。でも、社会に出るためにはその格好をし、決められたマナーを守り、期待される「社会人」を演じなければならない。そう自分に言い聞かせてきたはずです。
入社して数年。仕事にも少しずつ慣れてきた20代の君は今、目に見えない「心のスーツ」を着込んでいませんか? 「20代のうちにこれくらいのスキルを身につけなければならない」 「会社では、常に明るく有能な若手でいなければならない」 「周りの同世代に比べて、遅れてはいけない」
そんな「こうあるべき」という理想像を自分に押し付け、本当の自分の声を押し殺してはいないでしょうか。もし、日曜日の夜に理由のない不安に襲われるなら、それは君の心が「もうそのスーツはサイズが合っていないよ」とサインを送っている証拠かもしれません。
本論:社会的アイデンティティという「適応の罠」
私たちは社会の一員になるとき、集団の中での自分の役割を強く意識します。これを社会心理学では、社会的アイデンティティと呼びます。20代はこのアイデンティティを確立しようとするあまり、自分本来の特性を過剰に修正してしまう傾向があります。
1. 「適応」という名のアンラーニング不足
会社や業界のルールに早く馴染もうとすることは、短期的には「デキる若手」として重宝されるかもしれません。しかし、組織行動学の視点で見れば、組織の論理に染まりすぎることは、個人の創造性や批判的思考を奪うリスクを孕んでいます。
アンラーニングとは、単に古い知識を捨てることではなく、無意識に受け入れてしまった「組織の常識」や「他人の価値観」を、もう一度自分のフィルターにかけ直す作業です。 「このマナーは、本当に今の時代に必要なのか?」 「この評価軸は、自分の人生を豊かにしてくれるのか?」 そう問い直すことで、組織に埋没しない「個」としての君が呼吸を始めます。
2. 「横並びの安心」をアンラーニングする
SNSを開けば、キラキラした活躍をする同世代の姿が目に飛び込んできます。最短距離で成功を目指す「ライフハック」や「キャリア形成」の言葉に、焦りを感じることもあるでしょう。
しかし、キャリア理論の大家であるダグラス・ホールが提唱したプロティアン・キャリア(変幻自在なキャリア)では、キャリアの成功は「他人の目」ではなく「自己心理的成功」によって決まるとされています。
20代のうちに手放すべきは、他人と比較して安心したり絶望したりする「横並びの物差し」です。君の人生は、誰かと競うレースではありません。他人が作ったコースを必死に走るのをやめ、自分の足が向きたい方向へ一歩踏み出す。そのために、まずは「みんなと同じでなければならない」という思い込みをアンラーニングしましょう。
結び:自分という「原石」に戻る時間
社会人としてのスキルやマナーは、あくまで君という存在を助けるためのツール(道具)にすぎません。ツールに振り回されて、君自身がツールの形に変形してしまう必要はないのです。
20代の今、必要なのは「自分を何者かに作り替えること」ではなく、教育や社会によって塗り固められた「余計な色」を剥ぎ取っていくこと。アンラーニングを通じて、真っさらな自分に戻る勇気を持ってください。
窮屈なスーツを脱ぎ捨てた後に残る、少し不器用で、でも世界にたった一人しかいない君自身。その姿こそが、これからの長い人生を共に歩む最強のパートナーになるはずです。
今週は、仕事の後に「今日は自分らしくいられたかな?」と、一分だけ自分に尋ねてみてください。
著作権は経営ストラテジスト協会に帰属します。


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